機材が溢れかえった時代に、留守番電話の話をします。
中学三年か、高校一年の頃だったと思います。
福岡の実家。
ギターは弾き始めてたけど、まだバンドは組んでませんでした。
コードを押さえて曲を作る、なんてレベルじゃない。
ただ、バンドを組みたくてしょうがなかった。
そんな時期です。
【録音機材なんて、買えるわけがない】
当時、MTRっていう録音機材があるのは知ってました。
でも、学生ですからね。
そんな金、あるわけがない。
というか、仮に金があっても買わなかったと思います。
だって、エフェクター(音色を変える機械)が欲しいじゃないですか。
服も買いたい。
10代の優先順位って、そういうものです。
だから、録音する手段がなかった。
でも、曲は浮かんでくるんです。
【浮かぶのは、いつも外だった】
不思議なもので、メロディが浮かぶのは、たいてい外にいる時でした。
学校の中じゃない。
歩いてる時です。
何か考えごとをしてたり、想像をふくらませてたりする時に、ふっと降ってくる。
好きなバンドの曲をモチーフに、こんなのどうだろう、みたいなことも考えてました。
パクリじゃないですよ。
真似、というか。あの感じに近いものを作りたい、という気持ちです。
で、問題はここからです。
浮かんだメロディを、どうやって持って帰るか。
【家まで、鼻歌で歌い続ける】
答えは、シンプルでした。
忘れないように、家に着くまで、ずっと鼻歌で歌い続けるんです。
歩きながら、ずっと。
止めたら消える気がするから、止めない。
そして家に着いたら、速攻でやることがありました。
留守番電話に、自分の声を吹き込むんです。
固定電話の、留守番電話機能。
あれに向かって、鼻歌を歌う。
サビの部分だけです。
それが、僕の録音機材でした。
【当時は、かっこいいとも思ってなかった】
これ、今話すと「え、マジで? 面白い」って言われるんですけど。
当時の僕は、かっこいいとか思ってませんでした。
ただ、面白かった。
プロのミュージシャンも、
外で曲が降りてきたら、
公衆電話から自宅にかけて、
留守電に鼻歌を吹き込むって聞いたことがあったんです。
だから、そういうものだと思ってました。
歌詞が浮かんだ時にやるボーカリストもいるでしょうし。
人に言ったこともないです。
べつに隠してたわけでもない。
ただ、自分の中だけのことだったから、誰かに話す必要がなかった。
まあ、家族がその場に居合わせたら、ちょっと恥ずかしかったかもしれませんけど。
学生の頃って、身内相手にそこまで気にしないじゃないですか。
【あれから、100曲以上作りました】
高校時代、けっこうな数の曲を作りました。
その後も含めれば、100曲は超えてると思います。
ボツにした曲も、数え切れないくらいあります。
面白いのは、ボツの大半が、自分でボツにしたものだってことです。
メンバーから「この曲はナシ」と言われた記憶は、ほとんどないんです。
なぜかというと、バンドのカラーとイメージを一番大事にして、
それに合う曲だけを持っていってたからです。
うちのバンドはノンジャンル(一応ロックバンド)でした。
ミクスチャーロックみたいな感じで、ロックンロールもパンクもハードロックもある。
ポップな曲もやりました。
だから幅は広かった。
それでも、合わない曲はある。
そういう曲は、自分の中に残しておきました。
その中に、「Too Young」という曲があります。
バラードです。
未発表のまま、完成もしてません。
でも、けっこう好きな曲です。
今でも歌えます。
30年近く経っても、まだ自分の中で鳴ることがある。
【今も、やってることは変わらない】
ここまで書いてきて、気づいたことがあります。
今の僕、実は同じことをやってるんです。
ランニングしてる時。
散歩してる時。
車を運転してる時。
自発的に、音声を録ってます。
思いついたことを、そのまま喋って残す。
道具が留守番電話からスマホに変わっただけで、
やってることは一緒です。
外で何かが浮かんで、それを忘れる前に記録する。
あの頃と、何も変わってない。
しかも、これがけっこう大事な時間なんですよね。
アウトプットのようでいて、自分のためのインプットにもなってる。
頭の中の整理になるんです。
【今朝、手ぶらで走って後悔した】
そして、今朝の話です。
朝、走ってきました。
走りながら、記事のネタとタイトルが浮かんだんです。
「お、これいいな」と思いました。
で、家に帰ってシャワーを浴びて、「よし、記事作らなきゃ」となった時。
忘れ去ってました。
きれいさっぱり、思い出せない。
けっこう悔しかったです。
今日は手ぶらで出たんです。
走ること、汗をかくことに集中しようと思って。
でも、あの中学生の僕は、機材なんて何も持ってなかったのに、家まで鼻歌を歌い続けて持ち帰ってたわけです。
スマホという最高の録音機材を持ってる今の僕が、手ぶらで出て、忘れて帰ってくる。
これ、進化なんですかね。
【音楽って、簡単ですよ】
だから、タイトルの話です。
音楽って、簡単なんです。
いまは、
機材がなくてもいい。
技術がなくてもいい。
パソコン一台あればなんでもできる時代ですけど、
別にそこまでいらない。
鼻歌をスマホに吹き込む。
それだけで、曲は始まります。
そしてそれは、音楽に限った話じゃないんですよね。
何かを始める時、人はすぐに道具を揃えたくなる。
勉強してから。
環境を整えてから。
ちゃんと準備してから。
でも、本当に必要なのは、留守番電話に鼻歌を吹き込むくらいのことでしかないのかもしれません。
完成していなくてもいい。
誰かに見せなくてもいい。
まず、自分の中で鳴ったものを残す。
そこから始めればいいんです。
結構みんな何かを始める時って、
難しく考えすぎちゃいますよね。
あとは失敗を先に心配したり。
でも、やっちまえばいいんです。
始めちまえばいい。
そして、もし途中で複雑に考えるようになったら、一回やめる。
やめて、またシンプルなところからやり直せばいい。
それだけの話です。
大事なのは、残すことだと思ってます。
浮かんだものを、記録として残す。
完成してなくてもいい。
世に出てなくてもいい。
30年前の鼻歌が、今も「Too Young」として自分の中に残ってるように。
残しておけば、いつか鳴らせる日が来るかもしれない。
今日忘れたネタは、もう戻ってきません。
だから明日は、スマホを持って走ろうと思います。
止まってもいい。音を止めなければ、道は続く。
ぶっさん




外出先で思いついたら、ボソボソとボイスメモに喋ります。書いてもいいのですが、なんだか書くと、一つフィルターを通してしまう感覚があるんです。読んでいて、そんな事を感じました。
やってることは画像生成と文章を書くことですが 日々の細かなアイデアのタネみたいなものはだいたいスマホのメモに残すか ブツブツ言いながらさらに考えたりしてます
どういう物を使うかより何を考えたりするかが大事そうです そういうことを再確認できた気がしました
ありがとうございます!